こんにちは、シカク代表たけしげです!
いきなりですが嬉しいことがあったので聞いてください。
2021年1月18日発売の雑誌『イラストレーション 2021年3月号』の装丁特集で、シカク出版の最新刊『酒ともやしと横になる私』(著・スズキナオ)が紹介されました!!
紹介してくださったのは「本を届ける場所から見た装丁」という、花田菜々子さん・山下優さん・粕川ゆきさんの3人の書店員さんがそれぞれ気になった本を対談形式で紹介するコーナー内。『酒もや』はなんと粕川さんと花田さんのお2人から選んでくださったそう。ありがたや……。
本の中身を紹介していただけるのももちろん転がり回るほど嬉しいのですが、まさか装丁の特集でご紹介いただけるとは夢にも思っていませんでした。
しかも『イラストレーション』は私がデザイン専門学生時代によく読んでいた雑誌。ブックデザイナーに憧れるもどうやったらなれるのか全くわからず諦めたあの頃の自分に教えたいです。
……つい話が逸れてしまいました。
シカク出版では新刊が出るたびに当ブログに制作裏話を書いているのですが、『酒もや』は発売から4ヶ月以上経つのにそれを書いていませんでした。
ただただ日々の忙しさに追われていただけなのですが、今回『イラストレーション』に取り上げていただいたことを受け、裏話を書いていなかったのはこの時に合わせるためだったのでは……!!?と運命の導きを感じました。
なので、満を持して『酒もや』の装丁の制作裏話を書きたいと思います。
とその前に、『酒もや』を知らない方のために簡単に説明いたします。
酒もやこと『酒ともやしと横になる私』は、ライター・スズキナオさんの脱力日常エッセイ集です。意味のあることはほとんど書いていないのですが、全身の力を抜きながら読める感じが新感覚だと案外評判です。
元々はシカクというお店(シカク出版発祥の地でもある)のメルマガで連載していた、「鈴木のぼやき」というコラムを書籍化したものです。
そしてこの本が「小さくてかわいい!」「サイズ感が妙で思わず手に取ってしまった」と、これまた案外評判です。
前述の雑誌『イラストレーション』でも、「すごく軽くて、サイズもちょっと気持ち悪い(笑)」と褒めて(?)いただいていました。
しかしこの判型、実は「三五判」という、れっきとした規格にのっとった判型なのです。
数年前、私はたまたま立ち寄った古本屋で、『野鳥 ポケット図鑑』という本を購入しました。
野鳥観察をする予定はなかったのですが、この本のなんともいえない可愛らしいサイズ感と佇まいに惹かれたのです。
「ポケット図鑑」と書かれている通り、ジャケットなどの大きめのポケットならスッと入る、スマホより少し大きいくらいの絶妙なサイズ感。
「いつかこのサイズの本を作りたいな」と思いながら、この本を家の本棚にしまっていました。
それから数年後、スズキナオさんのコラムを書籍化しようという計画が持ち上がった時に、すぐに「絶対あのサイズだ!!」とひらめきました。
フリーライターであるナオさんは、お店や人を取材して記事を執筆するのが仕事です。一時期私はその取材によく同行し、撮影などを手伝っていました。
その時に驚いたのですが、ナオさんはどこへ行く時もコンビニのカップ焼酎をポケットに忍ばせていました。取材前にはそれをグイッと飲んで臨むのです。
理由を聞くと、「シラフだとうまく話せない」「これがポケットに入ってていつでも飲めると思うことで元気が出る」みたいなことを言っていました。
まあそれはただのヤバいやつの話なのですが(ちなみに今は健康上の理由でやめたようです)、私は人々にとってのナオさんの文章は、ナオさんにとってのカップ焼酎みたいなものじゃないか?と思うのです。
ナオさんの文章は一見地味ですが、平坦な日常を楽しむヒントや、いつも見てる景色の色を変えるひらめきに満ちています。
その感覚を心のポケットに入れておくことで、つまらないと思っていた日々に少し変化が加わったり、新しいおもしろさを見つけようという気持ちが湧いてきたりする。そんな力を持った文章だと思います。
ナオさんがカップ焼酎を持ち歩くように、みんなにナオさんの文章を心のポケットに入れて持ち歩いてほしい。そしてしんどかったりしょうもなかったりする毎日を、少し楽しく感じてほしい。
そういったコンセプトから、『酒ともやしと横になる私』はポケットサイズで作ることに決めました。
そこで見本の野鳥図鑑をデザイナーの尾々田さんに渡したところ、これが三五判という判型であることを教えてもらったのです。
かつてはこのようなポケット図鑑や地図帳などでよく使われていた判型ですが、今はスマホの普及でそういった本の需要自体がなくなり、ほとんど使われることがないそうです。
それだけに印刷所探しにはちょっと苦労しました。
表紙は著者直々の「自分が何か偉業を成し遂げてるところの絵」というリクエストにより、宇宙遊泳をしているナオさんの絵に決まりました。表紙のイラストは私のソウルメイト、近頃チモさんです。
宇宙の輝きを表すため、カバーの紙はプリズムっぽい光沢感のある「スノーフィールド」
カバーを取ったところの、一転していつものナオさんが寝転んでいる絵が印刷されている紙は田舎っぽい素朴さのある「バフン紙」
表紙をめくったところの遊び紙は、もやもや感のある模様が入った「ダイヤボード」を使っています。
本文用紙は、持ち歩きやすいよう軽さ重視で「フロンティタフ」という中質紙にしました。完成した本が思いのほか分厚く、その割に軽かったので狙い通りで嬉しかったです。
「通販で届いた時軽すぎて不安になった」という人もいましたが……(笑)
でも厚みや軽さもあいまって、完成してみると「この造りにしてよかった!」としみじみ思うかわいい本に仕上がってくれました。
※本の間に挟まってる紙は、一部店舗限定のペーパーです
制作裏話、いかがでしたか?
毎回これを書いてると途中から「みんな興味あるんだろうか……」「こういうこと自分から書くのってダサいのか……?」などと不安に駆られるのですが、この広い世界に1人くらいは興味ある人がいると思うので、その人のために書いたと思うことにします。プレゼントフォーユー!
こんなに長い文章を読んでる人がまだ持ってないことはないと思いますが、一応最後にリンクを。