【期間】2024年1月6日(土)〜2月上旬ごろ
★色紙の展示やプレゼント企画、特典つき関連本の販売を予定!
『猛スピードで母は』『三の隣は五号室』などの作品で文学賞を取ったり、
『サイドカーに犬』『ジャージの二人』が映画化するなど、
とにかく高名な小説家・長嶋有さんのコミカライズ企画の単行本フェアが
数奇な巡り合わせによりシカクで開催されます!!
フェアにあわせて版元品切れとなっていた『いろんな私〜』原作本の蔵出し販売や、
参加漫画家たちの作品を販売。
関連書籍をお買い上げの方には特典しおりを差し上げます。
各話から印象的な1コマを抜き出したしおり。コマとカラーはランダムです。
(シカクの通販でも販売中)
担当編集さんに無理を言って、プレゼント企画も計画中!
また、12月23日に梅田ラテラルで行われる発売記念イベントの物販をシカクがお手伝いします。
会場物販でもフェアに先駆けて特典しおりをプレゼントします!
「『いろんな私〜』はもう買った」という方も多いと思うので、他タイトルのお買い上げでもOKです。
イベントのゲストは長嶋さん、そして『凪のお暇』のコナリミサトさん。
漫画愛あふれる陽気な会になるに違いないので、一緒にワイワイ楽しみましょう〜!
詳細・ご予約↓
で、せっかくシカクでフェアをやってくださるなら、シカクのお客さんに知って興味を持ってほしい!!
ということで、ここからはシカクの代表・竹重によるなるべくネタバレなしの各話感想文です。
忖度なしでマジでいい本だったので、長嶋有作品や漫画家さんたちの普段の作品を読んでいない人にも力強くおすすめします!(竹重も読んでいない作品がありましたが、ちゃんと楽しめました)
「三十歳」作画:米代恭(代表作:往生際の意味を知れ!)
【公式あらすじ】
もうすぐ三十歳になる秋子は、不倫がバレてピアノ教師を辞め、パチンコ屋で働いている。
冒頭でいきなりガツンと喰らわされ、この本に一気に引き込まれた。
初めはクールで淡々としている主人公が、過去の傷を乗り越えて感情を徐々に取り戻し、再び「傷つくことができる」ようになるまでが、言葉ではなく絵の力でみごとに表現されている。
そして辿り着くラストの1ページは、何度読んでも目頭が熱くなる。
漫画でしかできない表現を力強く見せつけてくれる、トップバッターにふさわしい作品。
「舟」作画:三本阪奈(代表作:ご成長ありがとうございます)
【公式あらすじ】
高校2年生の冬、1年後に控えた大学受験を意識しながら、奈津美は歯の矯正を始めている。
アフターコロナの時代なので、登場人物はみんなマスクをつけている。
原作でもその描写はあるのだけど、やはり絵で見ることにより時代性のインパクトは増す。
そんな中で三本さんの描く主人公の奈津美は、マスク越しでもわかるほどに表情豊か。
あえてマスクをずらして矯正中の歯を見せるシーンや、先輩と龍角散を分け合うシーンが漫画になることでグッと印象的になっている。
誰にでも経験のあるちょっとした、だけど高校2年生の奈津美にとっては大きな喜びや悲しみに、舟乗りのように揺られる姿がさらりと丁寧に描かれており、胸がジーンと温かくなった。
「今も未来も変わらない」作画:丹羽庭(代表作:トクサツガガガ)
【公式あらすじ】
夫と別れた四十代の星子は、大学生の娘を育てながら、二十代の彼氏と付き合っている。
収録作品の中でいちばんポップな話。
登場人物たちの会話のテンポの良さやコミカルな仕草が楽しく、最後には感動し、この人たちの話がもっと読みたい!!と思わせてくれた。
細かいセリフ回し(「ガムと締切はよく伸びるんだよ」とか「現代ツールの拡散力よ…」など)もいちいちおもしろい!
この作品だけ小説が元ではなく、原作小説の後日談をざっくりプロットにし、それを漫画にしたという。長嶋さんのpodcastで裏話を聞くに、細かい部分は丹羽さんのオリジナルらしいのだけど、それを聞いて丹羽さんがキャラクターを自分の中に取り込む能力の高さに驚いた。
「もう生まれたくない」作画:コナリミサト(代表作:凪のお暇)
【公式あらすじ】
空母のように巨大な大学で働いていた春菜は、夫を事故で亡くし酒浸りの日々を送っている。
収録作品の中でいちばん、ストレートに悲しく、胃のあたりにズン……とくる話。
たくさんの死が扱われる長編原作の中から、飛び抜けて心がきしむ(と私は感じた)死を抽出して漫画に落とし込んでいる。
長嶋作品は人生のあらゆる事象をフラットに書く印象があるけど、その中には「日々の派手じゃないささやかな出来事」のようなものだけでなく、こういう「ズガーンとショックな出来事」も当然含まれるのだなと、この1作品が入ることで急に分からされる。
作品としての完成度も言うまでもなし。場面がほとんど変わらない会話劇で、飽きさせずにテンポよく読ませられる漫画力の高さはさすがです!
「問いのない答え」作画:鶴谷香央理(代表作:メタモルフォーゼの縁側)
【公式あらすじ】
石巻で被災した女子高生・一二三と、駆け出しの小説家・サキの人生が交差する。
作中に登場する「Twitter上の言葉遊び」は、長嶋さんが2011年の震災直後に実際におこなったもの。
世界に黒雲が立ち込めて前が見えないような状況で少しの楽しさを紡ぎ出せることや、それがなければ生まれなかった出会いがあることは、不条理な世界を生きていく上での希望になると思う。
鶴谷さんの描く石巻の風景に、災害の悲惨さだけでなくどこか未来があるようにも見えるのは、鶴谷さん自身も当時の言葉遊びに参加し、希望を受け取った一人だからじゃないだろうか。
言葉少なに語り合う一二三とサキだが、それだけに最後の1ページのセリフに込められた情感にグッとくる。
「三の隣は五号室」作画:雁須磨子(代表作:あした死ぬには、)
【公式あらすじ】
五号室の9番目の住人、久美子は前の住人たちの残したものを感じながら生活を始める。
1つの部屋の歴代の住民たちの様子が、時代を超えてシームレスに綴られた原作。
舞台はそのままに登場人物だけがめまぐるしく変わる不思議な話が、なんとまるごと漫画になっている。
小説と違って漫画には視覚情報が加わるから、登場人物が多いと煩雑な印象になりやすいはずだけど、それを一切感じさせない雁さんの筆致の軽やかさがすごい。
キャラクターの触れ方に多少の差はあれど、住民たちみんなに生活があり暮らしていたことが伝わり、読後は爽やかな気持ちになる。部屋が走馬灯を見るとしたらこんな感じになるんじゃないだろうか。
これもまた、本のラストにふさわしいお話だなと感じた。