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よかった本

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細馬宏通さんの「うたのしくみ」という本を読んでいます。

うたについての文章というと、
歌詞の考察、メロディのカッコよさ、音楽理論の話、個人的な感想や思い出…などが浮かびます。
だけど、それをバラバラにしてしまうと、歌は歌ではなくなってしまう。
この本は、それら「歌を構成する要素」を全て丸ごとひとまとめに書いた、
まさしく「うたについて書かれた」本。

ここに書いてあることは、本当は、音楽を聴くときに誰もが
無意識に、あるいは意識してやっているはずのことです。
メロディに耳を澄ませ、ビートに乗り、歌詞の意味を咀嚼して、気持ちの高まりを感じる。
だけどそんな音楽体験をそのまま文章にまとめることは困難で、
本書のあとがきでも「歌のことを書こうとすると、歌を失ってしまう」
と、その難しさが打ち明けられています。

けれど細馬さんは、その難しい文章を見事にまとめあげた。
結果どういうものになったかというと、
うたを歌う、聴く人たちの無意識の動きを浮き彫りにし、
新しいうたの楽しみ方を発見させる、素晴らしい本になっています。

例えば、ユーミンが小節の間にすべり込ませた「SH」の音。
例えば、童謡「お正月」で夢と現実をするりと行き来させる技巧。
それから大滝詠一の音楽に隠された、聴き手を裏切る揺さぶりの不思議。

私が洋楽オンチなもんで例えが偏っていますが、
J-POPだけでなくボサノヴァ、ロック、アメリカ民謡など
幅広いジャンルを行き来しながら、
私たちが音楽に抱く心のざわめきを明快に解き明かしてくれます。

そしてまあ、この人のあらゆる分野への知識の幅広さったらスゴい。
私ももっと本とか読まないと、としみじみ思いました。